レインボーリボン メールマガジン 第133号 子どもの貧困は「終わった問題」なのか
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■■ レインボーリボン メールマガジン 第133号
■■ 子どもの貧困は「終わった問題」なのか
2025/4/30
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東京都葛飾区を拠点とするNPO法人レインボーリボンの活動報告、代表の緒方の思いをお伝えするメールマガジンを毎月、月末にお届けしています。
新年度が始まって1カ月。ゴールデンウィークがあり、5月にはまた新年度の2か月目が始まります。
大人も子どもも、緊張とプレッシャーに飲み込まれないように、上手に休む必要がありますね。
実際、5月は自殺が多い月です。
NPO法人 自殺対策支援センター ライフリンクは、20年前、年間自殺者数が3万人を超えた日本で1人の青年が立ち上げたNPOです。
3月に「自殺対策に挑んだライフリンクの20年を振り返るドキュメンタリー映像」を作るクラウドファンディングに寄付したところ、今月、そのDVDが送られてきました。
映像は一般公開されており、下記リンクより見ることができます。
https://lifelink.or.jp/movie
ドキュメンタリーを見て、ライフリンク代表の清水康之さんの、信じられないほどの熱量に圧倒されました。
「(家族の死因が)自殺と言えない」という遺族の、特に遺児の苦しみに寄り添うところから出発したNHKディレクターの清水さん。「この状況を絶対に変えてやる」と決意してNHKを退職し、NPOを作ります。
「個人の問題」「自己責任」ではない、「社会の問題」であると、全国の遺児、遺族の声を集め、10万人署名を国会に届け、ついに2006年の自殺対策基本法成立にこぎつけます。
しかし、「メンタルヘルスは国民的課題である」等、国が提言がまとめたところで、実際に人が自殺に追い込まれる社会の状況が改善されたわけではありません。清水さんは「生き心地の良い社会」を作ることが必要なのだと、さらに活動を強め、国でも自治体でも縦割り組織を横断した具体的な自殺対策の取り組みを実現させています。
2024年の自殺者数は2万268人で減少傾向にありますが、子どもは527人(小学生15人、中学生163人、高校生349人)で、毎年「過去最多」を更新しています。
10才から34才の子ども・若者の死因第1位が「自殺」という国は、他にありません。
ごくごく小さなNPOであるレインボーリボンですが、「子ども・若者支援」をミッションに掲げる団体として、胸がつぶれる思いです。
ライフリンクの清水さんが全国の自死遺族1000人に詳細な聞き取り調査を行い、自死に至る要素を細かく分析し、対策を立てたように、困難を抱えた子ども・若者の実態をもっと詳しく調べ、分析し、「生き心地の良い社会」にするための方策を考える必要があるのではないでしょうか。
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが3万人を対象に実施した「子どもの貧困と子どもの権利に関する全国市民意識調査」によると、「子どもの貧困について聞いたことがない」と答えた人は2019年には子ども31%、大人28.8%だったのに、2024年には子ども43.7%、大人48.9%と、「子どもの貧困」の認知度は大きく下がっているそうです。
この間、子どもの貧困率は2018年の14.0%から、2021年は11.5%と改善され、世間では子どもの貧困は「終わった問題」と認識されているのかもしれません。
「子どもの貧困」は本当に改善、解決の方向に向かっているのでしょうか。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングによると、子どもの貧困率の低下は共働き世帯の増加などが主な要因であり、社会保障の充実など、国の政策による成果ではないと分析しています。また、「ひとり親家庭の場合、可処分所得100万円以下の層はかえって増加してしまっている」と、格差の拡大にも言及しています。
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2023/08/seiken_230814_02_01.pdf
「新学期は校外学習・文房具・学校指定の上靴など成長に合ったもの・PTA…来月には水着一式・学校微収金…いずれも(行政の)支援対象外の集金項目で、昨年同様に逼迫したまま、冷蔵庫は空っぽ、小麦粉ですいとんなど主食に作っていますが、連休中は子どもたちに昼食が必要になるのでいったいどうしようかと…」
先週、レインボーリボンに届いたLineのメッセージです。
フードパントリーに頼らざるを得ない子育て家庭の実態を目の当たりにすると、子どもの貧困が解決に向かっているとは、どうしても思えません。
生活保護を受けているのに「生活苦」で自殺する人も増えています。
公益財団法人 子どもの貧困対策センター あすのばの「あすのば給付金受給者6千人調査」【あすのばが実施する「入学・新生活応援給付金」などの受給世帯(生活保護受給者世帯、住民税非課税世帯)14,845世帯の保護者、子ども・若者に対するアンケート調査】では、健康状況を「よくない・あまりよくない」と回答した人が約4割(39.2%)に達し、医療機関を「ほとんど受診しない・まったく受診しない」人が 33.9%。その理由は「医療費負担が大きい」が60.9%、「病院に行く時間がない」が51.4%という厳しい生活が明らかになっています。
https://www.usnova.org/wp-content/uploads/2024/11/report_20241122.pdf
この調査では、小学生による国などの制度への希望のうち、「生活が楽になるしくみ」が最も高く78.0%。同様に中学生以降でも、支援制度として「生活を安定させるための手当や給付金の拡充」が最も高く9割近く(中学生87.6%、高校生90.8%、大学・専門学校生88.4%)。子どもであっても、家庭生活の経済的安定を何よりも希求しています。
この調査結果を受けて、あすのばは「こどもの貧困解消に向けた政策提言」を発表しています。
https://www.usnova.org/wp-content/uploads/2024/11/teigen_20241113.pdf
いま、各政党が掲げている政策のうち、「税金の基礎控除額を上げろ」という主張は貧困層の救済とは関係がないばかりか、むしろ格差を拡大する恐れがあります。「消費税を減税しろ」という主張は、貧困対策の効果は薄く、むしろ社会保障を削減する危険をはらむものです。
政治に対する失望や無関心を煽りたいとは思いません。
ただ、票にならない「子どもの貧困解消」という政策を実現するために、「この状況を絶対に変えてやる」という熱量を、忘れたくないと思います。
(代表・緒方美穂子)
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