レインボーリボン メールマガジン 第138号 「こども食堂」という名前
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■■ レインボーリボン メールマガジン 第138号
■■ 「こども食堂」という名前
2025/9/30
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東京都葛飾区を拠点とするNPO法人レインボーリボンの活動報告、代表の緒方の思いをお伝えするメールマガジンを毎月、月末にお届けしています。
「こども食堂の名付け親」と言われる大田区「気まぐれ八百屋だんだん」の近藤博子さんが少し前に、「『こども食堂』という名前は宝箱に大切にしまいたい」とFacebookで宣言されました。活動は続けているのだけど、もう「こども食堂」という看板は出していないそうです。
今月13日の朝日新聞に詳細なインタビュー記事が掲載されました。
https://digital.asahi.com/articles/AST991TB5T99UPQJ001M.html?ptoken=01K50FS2N8KND05AFPY7ZJWZEJ&fbclid=IwY2xjawM8f-dleHRuA2FlbQIxMABicmlkETF0NHhKWTBDWlNtZFY3cW1zAR4ETbvyC6qNMgGylU_R0ETLxF1dLIU4gt6ea3_S0aFApUqnbQJvfVT_dNyA1w_aem_sDjvxPZ8fq1VFl1bq4uhfg
記事では、近藤さんが「こども食堂」の名前を使わない理由の一つとして、「子どもの貧困」など、本来は国が解決すべき社会課題なのに、政治・行政は「子ども食堂さん、がんばれ」と責任を逃れ、企業は寄付やCSR(社会貢献)で課題解決に取り組んでいるように振る舞い、貧困や雇用問題は「見て見ぬふりをしている社会」、その欺瞞に対する怒りが伺われました。
私も同じことを思うことがあります。
給食のない夏休み、かつしか子ども食堂・居場所づくりネットワークでは「夏休みごはんプロジェクト」を実施し、葛飾区と足立区の福祉関連部署やスクールソーシャルワーカーさんのご紹介による22世帯50人に1392食(83万5200円相当)を提供しました。
https://katsushika-kodomoshokudou.net/2025/09/09/2025natuyasumip/
でも、本当は、行政が夏休みの困窮子育て家庭にお米やお弁当を配ってくれれば良いのです。(足立区では配っているそうです。)
葛飾区では、あのコロナ禍の緊急事態でさえ、私たちが区長に直訴しても、何の対応もしてくれませんでした。当時の教育委員会課長の言い草を今でも覚えています。
「学校給食は学校給食法で何年生にはマグネシウム何グラムとまで細かく定められているんですよ。給食を弁当にして校外に持ち出すなんて、あってはならないことです」。
予測不可能なことが起きる時代に、子どもたちには柔軟な想像力、問題解決能力を求めると言いながら、行政の教育担当者が、法律に定められた栄養価が確保できないから給食は作れないとか、食中毒を出さないために校外に持ち出せないとか、そういう「ゼロか百か」の思考法をとっている限り、子どもの貧困問題は放置されたままです。
法律どおりの栄養でなくても、お菓子で飢えをしのいでいる子どもにとっては「食事」が必要だったのです。外に持ち出せないのであれば、教室で食べさせてくれれば良かったのです。
また、近藤さんは別の記事で、ルポライターの杉山春さんが「今、こども家庭庁はさらに地域の子どもの居場所づくりを呼びかけています。厚生労働省は、高齢者・障害者・子ども・生活困窮の分野でそれぞれ行われていた相談支援・地域づくりを一体的に実施する重層的支援体制整備事業を民間の力を巻き込んで進めています」といった流れに見解を求めたところ、
「地域力、居場所作りといいますが、そんな生やさしいものではないです。そういうことを行政の方も知ってほしい。あなたたちはお仕事ですが、私たちはボランティアだということを忘れないでほしい。こども食堂は行政の下請けではありません」と、厳しい指摘をされています。
https://toyokeizai.net/articles/-/880254?page=4&fbclid=IwY2xjawM8koNleHRuA2FlbQIxMQABHlTYiK3AgbXsbcAfOLRoy4HJTpzljktv4WKoL6K5Gpqz6rwT_Dw4G7xq1Aep_aem_JEYk9b4o2BdeU5B_QDZCGw
葛飾区でも福祉部局が中心となって「重層的支援とは何か」を学ぶ研修会が何回か開かれていて、いつも参加希望者が満杯の会場に、我々ネットワークからも数名の参加が認められています。
この研修会で「こども食堂をやっています」と自己紹介すると、「名刺交換させてください」「見学に行っても良いですか」と、福祉行政のベテラン職員や大病院のソーシャルワーカーといった、プロ中のプロの方々からお声がけいただきます。私のような素人が、「こども食堂」のネームバリューのおかげで大きな顔をしています。
しかし近藤さんは昔から、このように「こども食堂」の名前が持ち上げられ、民間ボランティアの限界を越える対応を求められることに、とても怒っていらっしゃいました。
葛飾区でも他のNPOの活動事例として、親の虐待を逃れて夜の街をさまよう子を自宅に泊めているといった話を聞きます。その子が「児相はいやだ」と拒否すれば、自宅に泊めるしかないわけです。
民間ボランティアがやるべきことでしょうか。
一時保護は児相でやっています。施設への宿泊には保護者の申請が必要です。そして、すべての子育て支援は18才をもって終了します。
それでよしとしたら、こぼれ落ちる子ども、親がいるのは当たり前です。それはやっぱり、政治行政の「不作為」と言うべきではないでしょうか。
また、近藤さんは杉山春さんのインタビュー記事の中で、「地域には町会や商店会など既存の団体があります。自治会長や保護司、民生委員など、肩書きがある方たちもいる。こども食堂は地域の新参者で、なかなか関係を作りにくい」と、福祉の担い手としては「新参者」のこども食堂の立ち位置の難しさにも言及されています。
葛飾区でも様々な動きがあり、今でも試行錯誤の最中です。
民生委員さんや地域の青少年育成団体、農業団体や商店会などの方々が「こども食堂」を寄付やボランティアで応援してくれたり、それぞれの現場で出会う子どもへの支援のため、スタッフ同士が行き来したり、そもそも同一人物が複数の活動団体スタッフとして活躍していたり…。
そんな素敵な協働関係がある一方、行政や学校との連携については、新参者は関係づくりがとても難しいと感じています。
葛飾区では区内7カ所の拠点児童館を順次改築していく過程で、子育て支援拠点としての「子ども未来プラザ」を整備するとして、ガイドラインを定めています。
https://www.city.katsushika.lg.jp/information/1000084/1006015/1024280.html
従来の児童館運営委員会は民生委員さんや学校関連の青少年育成のボランティアが構成員となり、地域の子どもたちの環境改善に努めていますが、「未来プラザ」の順次開館に伴い、そうした各館の運営委員会とは別に、「子育て支援団体と子ども未来プラザの連携に向けた意見交換会」を年に1~2回開催しています。区側の参加者は子育て政策課の課長、係長ら、既に開館している未来プラザの所長など、市民側の参加者は「子育てネットワーク」「子ども・若者応援ネットワーク」それに我々「子ども食堂・居場所づくりネットワーク」の3つのネットワークからそれぞれ数名です。
未来プラザガイドラインが「地域内の保育所等施設と関係行政機関、地域団体、民生児童委員、NPO等の連携を深める」等、今までにない方針を示したものだったので、この意見交換会にも当初とても期待していたのですが、結局、3つのネットワーク側の意見を区側が「聞く」というだけで、そこで意見を言ったところで施策が変更されることもありませんでした。
未来プラザにはこども食堂を実施する調理施設は設けないという方針でどんどん建設が進んでいく中、私たちの堪忍袋の緒が切れて、区議会請願に至ったという経緯は過去のメルマガに書きました。
https://rainbow-ribbon-net.org/mailmagazine/mail-no123/
近藤博子さんの問題提起ですが、もう1点、別の視点も提示されていると思います。
「こども食堂」といえば助成金や寄付金が得られる、そういう名前の使われ方です。
「大事なのは子ども食堂という『活動』ではないですよね。子どもであり、子どもを育てる親こそ大事なはずです。当事者が置かれている状況を改善しようという議論をせずに、子ども食堂の数や利用者を増やすことが目的になっていないでしょうか」。
助成金、寄付金目当ての活動になっていないか、自己満足の活動になっていないか。
名付け親の近藤さんの宣言に少なからずショックを受けつつ、「こども食堂」という名前を「免罪符」にしてはいけないと改めて肝に銘じ、私たち自身は名前に恥じない活動をこれからも地道にやっていくしかない…と、今は思っています。
(代表・緒方美穂子)
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