レインボーリボン メールマガジン 第140号 “何でも相談してね”とか言う大人が、一番信用できないんだよね

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■■  レインボーリボン メールマガジン 第140号
■■   “何でも相談してね”とか言う大人が、一番信用できないんだよね
  2025/11/30
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東京都葛飾区を拠点とするNPO法人レインボーリボンの活動報告、代表の緒方の思いをお伝えするメールマガジンを毎月、月末にお届けしています。

先月から今月初めにかけて地元の中学校で3日間にわたり、4校時の「いじめ防止教室」、プラス「保護者意見交換会」に出講させていただきました。
https://rainbow-ribbon-net.org/blog/20251029-1108ijime/

いじめ防止教室は中学1年生を対象に3校時行った後、学校公開日に3学年合同のグループワーク「いじめの加害者ストーリー」制作に取り組みました。
今回はなんと、映画監督のライオーン・マカヴォイさんが撮影に来られていて、生徒たちも、我々スタッフも張り切って授業に臨みました。
ライオーンさんは日本の子ども、若者の自殺率の高さに問題意識を持ち、その原因を探るドキュメンタリー映画を製作しています。完成は来年春頃だそうです。

このメルマガでも何度も書きましたが、G7の中で10代の若者の死因1位が「自殺」なのは日本だけです。
日本は子ども、若者が生きづらい社会なのです。
そのことを忘れてはいけないと思います。日常の中でつい忘れがちであるという面と、反面、そのことを考えると辛すぎて、自己防衛本能が働いて忘れているという面もありますが。

ライオーンさんのインタビューを受けて、なぜ「いじめ防止教室」を始めたのか、10年前の原点となる事件を思い出し、カメラの前で泣かずに話すことはできませんでした。
私の泣きっ面が映画になってしまうのは本当に嫌ですが、葛飾区で中学生の自殺があったことは事実ですし、その事件後の学校、教育委員会の対応に私の中の「怒りの炎」がいまだ収まらないのも現状なので、仕方がないです。
当時の学校、教育委員会は「自殺ではなく、不慮の事故である」「いじめは確認できなかった」と白を切り通そうとし、いよいよ白を切るのも限界となってくると「加害者を教育指導することが不可能なので、いじめではなかったこととする」という、まったく論理として通っていないばかりか、亡くなった被害者と遺族に対する二重三重の人権侵害となる「第三者調査委員会の答申」を発表するといった対応でした。

事件があったのは、葛飾区の10年単位の教育振興基本計画「教育プラン」が施行された直後でした。10年経った昨年度、私はたまたま新教育プランの策定委員の席を得て、「10年前の事件の反省を次の教育プランに反映させてほしい」と必死に訴えましたが、当時の教育長によって拒否されました。あまりにも頑なな態度に、私の「怒りの炎」が再び燃え上がってしまいました。
「なかったこと」にしたいんだな。
子どもの命と人権なんて二の次、自己保身が大事なんだ。

私たちが「いじめ防止教室」を通して子どもたちに伝えたいことは、いじめの被害を避ける行動の仕方や、傍観せずに介入するノウハウだけではありません。
私たちは過去の事件に誠実に向き合って、直接的にではなくても、死ぬほど苦しんいる子どもが身近にいたのに「助けてあげられなくて悪かった」と反省して、今は、子どもが自殺しなくて済む社会を作るために頑張っています、そういう大人がここにいるよ、と伝えたいのです。

いじめ防止教室では「信頼できる大人に相談しよう」と呼びかけますが、子どもにとっては「信頼できる大人」がいるかどうか、が、まずは大きな問題です。

今月末、あるオンライン・セミナーで精神科医の山口有紗さんの講演を聞きました。
著書『子どものウェルビーイングとひびきあう―権利、声、「象徴」としての子ども』(明石書店)に感銘を受けていたのですが、オンラインでお顔を拝見しながらお話を伺って、ますますファンになってしまいました。

山口さんが児童相談所の一時保護所で会った子どもの言葉です。
「“何でも相談してね”とか言う大人が、一番信用できないんだよね」

今回の保護者意見交換会でも、保護者の皆さんにお伝えしたのは、「もし、お子さんが相談してくれたら、まずは『話してくれてありがとう』と答えて」ということです。
話してくれたということは、子どもがあなたを信頼してくれたということなのです。
ただし、すぐに「学校に苦情を言う」とか「加害者に謝らせる」といった行動に出るのは、お子さんの気持ちを傷つけてしまう場合があるので慎重に…とも付け加えました。
保護者意見交換会ではうまく説明できませんでしたが、山口有紗さんの講演を聞いて「ああ、こう言えば良かったな」と思ったのは、「子どもの声とチューニングする」ということでした。

言葉として表出した「子どもの声」は氷山の一角であって、その下には様々な思い、背景、ストーリーがあるのです。特に暴力の被害を受けた子ども、トラウマのある子どもは、まとまりのない話をしたり、本当の願いとは正反対のことを口にすることがあります。
「声を聴くことは、継続的な、双方向のプロセス」(『子どものウェルビーイングとひびきあう』)。
その場で話を聞くだけではなく、その「前」「後」が大切です。話を聞く「前」に、子どもを一人の人格として尊重して接すること、子どもが安心できる環境で真剣に話を聴いた「後」に、子どもの発達段階や背景に応じて「子どもの最善の利益」にかなう方法を検討すること。その結果、子どもの声がどう反映されたか、あるいは反映できなかったか、その理由などを子どもにフィードバックすることが大切です。

いじめ防止教室で1年に数回出会うだけの子どもたちとこのような信頼関係を築くのは難しいのですが、こども食堂、フードパントリーであれば、毎週会うチャンスはあるので、時には子どもの声とうまくチューニングができて、その子の本当の願いに触れることができたと思う瞬間もあります。
が、ごく稀にです。
私もズルい大人の一人で、しんどさを抱えている子どもの荷物を自分も背負うところまで深入りするのは、無意識に避けているところがあると思います。

これも山口さんが強調していることですが、「声を聴く」行為は、自分も傷つく行為なのです。
特に傷ついた子どもの声を聴こうとする行為はエネルギーを使うことで、自分の心も疲れ、二次受傷するリスクが大きいです。受けとめた声を反映することができず、無力感に打ちのめされることもあります。
子どもの声を聴こうとする「支援者」をケアする「支援者支援」や、支援者が孤立しない「重層的支援」、ネットワークが必要です。

今月も行政への怒りをたくさん書きましたが、教育、福祉の現場で日々奮闘されている方々、その現場スタッフをケアし、課題解決に向けた職場マネジメントに取り組んでいる管理職の方々は本当に尊敬していますし、感謝しています。
やはり何度かメルマガで書いている「重層的支援体制」構築のための区役所の研修会には、参加枠がもういっぱいだというところに無理やり、今月は3回目の参加をさせていただきました。
部署ごとの縦割り、地域住民との隔たりを何とか埋めようと努力されている福祉職員の皆さんには本当に頭が下がります。

そして今月は、こども食堂実践者の内輪のおしゃべり会を設けてくれた仲間がいて、久しぶりに思いのたけを吐き出すこともできました。
ストレス発散、大切な自分ケア、自己コントロールです。
いじめ防止教室でも子どもたちに勧めるノウハウの一つですが、授業後のアンケートで「自分を守るということに、一番感動しました」「自分をコントロールできる人になりたいです」と書いてくれる子がいます。

おしゃべり会では、地域で子どもたちのしんどさに長年寄り添ってきた同志が数人、子どものしんどさに気づいてしまったらもう「私たち、一生じゃない?」と頷き合い、そんな私たちの覚悟とは裏腹に、子どもの声とは全然関係のない、大人の自己満足のために「こども食堂」の名前を利用する人たちのこと、「18才になったら子どもじゃないですね、はい終わり」という形式的・義務的な行政の冷たさ…
おっと、また行政批判に戻ってしまいそうなので、この辺にしておきます。
(代表・緒方美穂子)

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