レインボーリボン メールマガジン 第107号 「なかったこと」には、できないのだから

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■■  レインボーリボン メールマガジン 第107号
■■   「なかったこと」には、できないのだから
  2023/2/28
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毎月末、NPO法人レインボーリボンの活動報告と、代表、緒方の思いをお伝えするメールマガジンです。

2月は戦争や災害、残酷な事件など、悲惨なニュースが多い月でした。
そんなときに自分の心が沈みきってしまわないように、私はセルフ・ケアを心がけています。
「いじめ防止教室」で子どもたちに伝えているように、「空を見上げるだけでもいいんだよ」と、ストレス発散、心を守る行動をとるようにしています。

しかし、悲惨なニュースを「なかったこと」にしてはいけないということも強く思います。
戦争や犯罪は2度と同じ過ちを繰り返さないために、何があったのか、原因は何だったのか、歴史として記憶しなければなりません。
災害が起きたときは、救助、復興支援に取り組むと同時に、次の災害に備えて防災、減災の準備を始めなければなりません。

だから私たちは学び続けるのです。
コロナ対応もずいぶん緩和され、対面形式での講座や会合も増えました。

「かつしか子育てネットワーク」「かつしか子ども若者応援ネットワーク」「かつしか子ども食堂・居場所づくりネットワーク」の3つのネットワークが協力している「子どもの権利に関する連続講座」。その第3回「子どもの権利について話そう」を、2月19日に開催しました。
5~6人のグループごとに別れて「子どもの権利」について話し合ったのですが、私がファシリテーターを務めたグループには中学1年生の子が参加してくれて、とても盛り上がりました。
中学生のリアルな話は「教員による理不尽(な対応)」と、「(学校は)学びが少ない」でした。

おそらく新学習指導要領で重視されている「未知の状況にも対応できる思考力、判断力、表現力」を養おうという趣旨で、生徒たちが小旅行を企画するという授業があったとしても、いざ「この場所に行きたい」と提案すると「遠いからダメ」と言われ、
生徒会の意見箱に「理不尽なルールをなくしてほしい」と多数の投書が寄せられても、教員の意を汲んだ生徒会役員が「こうすればルールを守れる」と答えるだけ等々、
「だったら最初から企画とか意見箱とか、いらないでしょ!」という中学生の怒りに、大人たちは「学校って、特に中学校って、昔から変わらないね」とため息をつくばかりでした。

子どもの意見表明権を保障するということは、大人がその子の最善の利益のために、その子が自立と自己実現に向かって成長していくために、子どもの声に応答することだと思います。
赤ちゃんの泣き声に応答することも、中学生の意思を実現する方法を一緒に考えることも、大人の責任だと思っています。「責任」というと重苦しい気がしますが、それはとても楽しい「生きがい」と言っても良いと思うのです。

レインボーリボンの「あおとこども食堂」では、「遊ぶ前に宿題をする」とか「ゲーム禁止」等のルールは一切ありません。「何して遊ぶ?」と子どもの意見を聞くことから始めます。
例えば「疲れているのに勉強しなければならない」など、子どもにとって理不尽なルールを強制され、ルールに従わない・従えない子を責めたり排除しようとする場では、子どもが「荒れる」のは当たり前ではないでしょうか。
そのような場で「あの子は暴れて困る」と言われるような子も、あおとこども食堂では笑顔がかわいい、とても「いい子」です。その笑顔が、私たちボランティアにとって「生きがい」なのです。

子ども食堂ではそれで良いかもしれないけど、学校では子どもを教育しなければならないのだから、ルールを守らせる必要がある…と、反論されるかもしれません。
しかし、ルールは誰のためにあるのでしょうか?教育は誰のためのものなのでしょうか。

「子どもの権利について話そう」講座では、同じグループに「東京シューレ葛飾中学校」の校長先生もいらして、「シューレ中では子どもの意見を聞いて、子どもにとって必要なルールを作っています」と紹介してくださいました。例えば「学校に持って来てはいけない物」はなかったけれど、BB弾を持ち込まれると「怖い」という子がいたので、それは禁止にしたといったことです。

東京シューレは「教育機会確保法」(2017年施行)第10条で位置づけられた「不登校児童生徒に対しその実態に配慮して特別に編成された教育課程に基づく教育を行う学校」、いわゆる「不登校特例校」です。
講座終了後、スタッフ全員にプレゼントされた「東京シューレ学園15周年記念誌」には、哲学者・教育学者の苫野一徳さんの特別寄稿がありました。

苫野さんによれば、ルソーやヘーゲルは「なぜ人類だけが戦争を続けるのか?」という問いに対して、「それは人間だけが自由への欲望を自覚的に持っているからだ」と洞察したそうです。
人間は負けて奴隷にされるよりも、死を賭してでも自由を求めて立ち上がるのです。
戦いに終止符を打つための原理(考え方)は、自分が自由になるためには他者の自由も認めなければならないという「自由の相互承認」、民主主義の根本原理です。
この原理を実現させるための制度が、法(憲法)、公教育、そして福祉行政の3つだと言います。

苫野さんは公教育の本質は「すべての子どもに『自由の相互承認』の感度を育む」、「『自由』に、つまり『生きたいように生きられる』力を育む」ことだと述べています。民主主義の担い手を育てるということです。
このような教育の本質からかなり離れてしまっているように見える今の日本の学校教育は、150年もの間、「みんなで同じことを、同じペースで、同じようなやり方で、同質性の高い学年学級制の中で、出来合いの問いと答えを勉強」してきたシステムです。
このシステムの「構造転換」が近い将来、必ず実現する――という、苫野さんの論説に勇気づけられ、私自身、苦手な集団行動や同調圧力に苦しんだ「かつての子ども」として、今は子どもの笑顔を生きがいとする大人の一人として、民主主義の実現のためにがんばろうと思います。

2月26日には、レインボーリボンと同じく葛飾区青戸を拠点として外国人ママの支援に取り組んでいるRMJ(Relaxing Place for All Moms in Japan)との合同研修会「多文化共生の子育ち・子育て環境をつくろう」を開催しました。
この研修で講師のNPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部 mincの田中志穂さんが強調したことは、「日本語を母語としている」「国籍がある(制度に守られている)」「選挙権がある(意思表明権、決定権がある)」といった、日本社会の「多数派」である私たち(支援者)が、「少数派」の人々が置かれた社会的状況を「変える」という視点の大切さでした。

外国ルーツの12才の少女がいじめを受けて自殺した事例も紹介されました。
「○○人は…」といった偏見から投げつけられる言葉、態度、対応、一つ一つは小石程度の痛さでも、毎日、長年つづく心への攻撃は、人の命を奪う暴力となります。
日本語を母語としない保護者への配慮がない、同質を前提とした学校の対応によって、その家庭の子どもは「忘れ物が多い」「宿題をやってこない」「いつも劣っている」というレッテルを貼られるのです。

偏見による態度が差別的言動へと発展し、やがて殺人・暴行といった暴力へ、国家社会が関与するジェノサイド(虐殺)へとエスカレートする「憎悪のピラミッド」も紹介されました。
12才の少女の死も、日本がアジア太平洋戦争でアジア各国を侵略した歴史も、関東大震災の混乱期に朝鮮人を虐殺した事実も、「なかったこと」にはできません。

今、最も注意深く記憶に留めなければならないテーマは「コロナ禍の子どもたち」かもしれません。
人生の大切な3年間、人と会うこと、共に成長する多くの機会を奪われた「心の被災」をどうケアし、回復を支援していくのか…。
それぞれの「旅立ちの春」を迎えようとしている子どもたち、一人ひとりの顔を見て、声を聴いて、できれば一緒に笑いたいと願っています。
(代表・緒方美穂子)

▼NPO法人ハーフタイム講演会「生きづらさを抱えた子どもたちに寄り添い続ける」
 ※緒方も講演させていただきます。
 日時 2023年3月12日 14:00~17:00
場所 葛飾区新小岩地区センター第一会議室(葛飾区新小岩2-17-1)
Zoomによるオンライン参加もあり
ハーフタイムHP:
https://halftime2010.wixsite.com/halftime/workshop01

ハーフタイムFacebookページ:
https://www.facebook.com/events/511819207732229?ref=newsfeed

▼子どもの権利に関する連続講座 第4回「『子どもの権利条例』と子ども夢パーク」
 3月21日(火・祝) 13時30分~15時30分 青戸地区センター
 講師:山田雅太さん(子どもの権利フォーラム 顧問)
受付フォーム:
https://docs.google.com/forms/d/1eghW-44enNgttVhYin5qod89WGGZhuaYNUWpkWw6HHc/edit

◆3つのネットワーク企画 映画「ゆめパのじかん」上映会 3月21日(火・祝)10:30~ 映画90分 参加費:1000円(中学生以下無料) 青戸地区センター
受付フォーム:
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdAqgz7UY-UC_VNFkbcXTbNyoc4nzP7SRKCfTJYxoqJMTv6HQ/viewform

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